2018.09.02
マロンパイ
熊本県産栗マロンパイの軌跡。栗・パイ生地・焼成編の三部作です。

1.栗編
マロンパイも20年前は大きな銅鍋で、
鬼皮を剥いて、渋皮を傷つけないようコトコト渋皮煮を炊いてました。
仕込み量も多くなって来ると、安定した渋皮煮を炊くのも難しく、皮が硬くなったり試行錯誤の繰り返しでした。
自分達で炊くのも限界を迎え、委託先を探していたところ、
数年前、みつば薬局の永里さんを通じて、栗や筍の加工所を紹介してもらいました。
缶詰の渋皮栗について調べてみると、
韓国などで採れた栗を日本で加工すると、日本産や熊本県産などと謳ってあり、
炊く砂糖もたまたまみて舐めてみたのですが、科学的に作られた安価な砂糖、
これって砂糖なのかな??という感じでした。
なかなか熊本県産の栗を探す事は難しく、原料も何を使っているか分からない。
だから手を出す事が出来ませんでした。
紹介してもらった加工場は、
生栗を熊本県球磨郡の山江から主に仕入れています。
機械と人の手で品質をチェックして、
砂糖と水。材料はそれだけを使用し、
大きな圧力鍋で炊き上げて缶詰や瓶詰めにして、デパートなどで高価に取引されています。
ただ、気になったのが糖度と栗の硬さ。
工場長に長めに炊けないか相談したら、
それは出来ないと一蹴。
糖度は出来るとしても、炊く時間は延ばせない。
爆発して栗そのものの形を残せない。
炊き方を巡り熱くやり取りをしました。
炊いて失敗した分も当店が全て買い取るという条件で、一回だけチャレンジしてもらえる事になりました。
通常の時間より10分長く。炊く。
五分過ぎ、そして10分。
恐る恐る釜を開けてみるとそのままの形が保たれてる。
こんなの有り得ない…。
常識も疑ってみると良い結果になる事もあります。
糖度は通常45度~47度のところ、42度にしてもらいました。
それを再度バニラのシロップで炊くことにより、さらに糖度を落とし、
さくらんぼのブランデーでマリネして一週間漬け込みます。
焼いて食べると、ほのかにワインのような味がします。
2017年から更に良くなった渋皮煮です。
毎年、微妙にレシピも製法も変わっていきます。
まずは名前の通り“栗”から。本物の“県産栗”それは加工場所も。
嘘偽りない素材をお届けします。
2.パイ生地編
レシピ的に言えば粉に対してバターが80%入ります。
折パイなので、粉と水で作った生地にバターを包み込んで折っていきます。生地の方にもバターが入ります。なので80%超えます。
かなりバターの有分量は多くなります。
バターが多くなると作業がとてもしづらくなります。
冷蔵庫で冷やすと固くて包みにくく、外に出して常温に置くと柔らかくなってベタベタします。
配合をリッチに。は、良いのですが、良い状態を保ちながらの作業は困難を極めます。
全ては“タイミング”なんですね。リズムというか。
パイ生地に入れるバターを、以前は溶かして入れていたのですが、現在ポマード状にして入れています。
微妙な違いですが、粉の馴染みが違うような気がします。
それを更にグルテンを出し切って、完全に“腰を抜き”ます。
これも前は混ざり切る前に止めてました。
どっちかだと思います。
腰を出す前に止めるか、出し切って止めるか。
出し切った方がパイの伸びが良く“サクッ”と歯切れがいいように思います。
そして折っていく作業。
バターをはみ出さず、折り込んでいきます。
三つ折り二回、四つ折り4回。
3・4・3・4です。
破れてはみ出ると、焼いた時にバターの油が溢れ出て、風味も食感もとても悪くなります。
今は専門店でもパイを折る所は数えるほどになっています。
何故折るのか?
それはこのレシピは機械で折れないからです。
こんなにもバターが入るパイは、
室温や状態に応じて冷やす時間も休ませる時間も、人の手で調整しなければなりません。
全ては、納得いく味や食感を出すために。
折るから良いとか、折らないからこだわりが無いとかを言ってるわけではありません。
“職人”ですから、自分自身が納得しなければ、売れても作業しやすくても意味が無いのです。
最近は既製品のパイも美味しいです。
フジヤは香料も添加物も入らないシンプルな配合のパイです。
現代の機械、AIでは作れないパイだと思います。
人の感情や気持ちも入り込んだ“意地”のパイ。
仕入れたパイで包むマロンパイやパイシリーズを出すようになれば、速やかにお店を閉じる。
そんな覚悟で職人たちはパイ折り続けていきます。
どんなに便利になっても、
どんなに機械化されても、
人の手によってでしか出来ないパイを作り続けます。
モンブランフジヤの“気持ち”がこのパイに全て詰まってるような気がします。
3.焼成編
一番最初に焼いた時は、小さいセルクルを使って焼きました。
ズングリムックリなマロンパイでした。
その後、写真に写ってるような型でステンレスカップ、
その次は同じ形状のプラスチック製の容器、
そして現在、シリコン型の底に穴の空いた型で焼いています。
火通りやバターの油の“出具合”で改良を重ね、
今の型は5代目の焼き方になります。
以前は焼き上がり後にパイが冷めてから、型から抜いていましたが、
焼いた後パイにバターの油が回り、
その匂いがとても気になっていました。
酸化したような。
そこで、焼成中もバターの油が抜けるように、型の底に穴を空けました。
焼き上がったらすぐに紙の上に乗せて、油分を吸い取らせるようにしました。
余分な油を抜き取ります。
焼成中も、途中で水を吹きかけ「水蒸気で焼く」作業を、3回繰り返します。
フランスパンの技法を用いて。外はパリッと、中はしっとり。
フランスパンはそんな焼成方法を取っていて、スチームで焼き上げています。
その発想を取り入れ、パイはよりサクッと上がるようになりました。
よく、焼き立てが美味しいとされてますが、
マロンパイ、パイ全般(フジヤに限って)は
“冷めたて”が一番美味しいと思ってます。
まだまだ道の途中。
より美味しく。
そんなパイの、
マロンパイの道は続きます。
これからもより良くな姿勢を大事に、気持ちを込めて作っていきます。